ロドリゴ・レイ・ローサ「聾者」 

ロドリゴ・レイ・ローサのLos Sordos、今日は時間があったので一気に読めました。


前回書いたプロローグに続いて、
今度はグアテマラシティで資産家の娘であるクララが失踪します。


おじのチェペの紹介でクララのボディーガードとなったカエタノは
やがてクララに恋心を抱くようになるが、
クララの失踪には一家の弁護士でありクララの愛人であるハビエルが係わっているとみて
クララの行方を追求、
二人がアティトラン湖畔の村にいることを突き止める。


この辺りまではかなり現実的な、
本当にありそうなストーリーなのですが、
ここから先は趣が変わっていきます。


ハビエルは実はクララを誘拐し、
自分の意のままになるよう薬を飲ませて
湖畔のホテルを買い取ると友人の医師と共に病院を設立、
そこに住み込んでいた。


カエタノは2人と会った帰り道にバイクで事故を起こし
大怪我をして彼らの病院に運ばれた。
カエタノは病院で洗脳や人体実験が行われていると思い
病院を抜け出すと、
近くの町の人達に助けを求めた。


住民らはカエタノの話を信じ
ハビエルの友人が市場に買い物に来ていたところを捕らえると
住民裁判にかけるために広場に連行した。


話を聞いたハビエルは使用人でツトゥヒル族のパブロの助けを求め
パブロはツトゥヒルの長老の助けを得て、事なきをえた。
カエタノはクララの兄(弟?)のイグナシオにも連絡し、
病院の人体実験について検察の捜査を求めたが
病院を訪れた検事らは病院に何ら不審な点を見つけられないままその場を後にする。


このシーンではグアテマラの警察、検察といった司法当局の人物も登場すれば
マヤ族独自の習慣、掟も出てきます。
司法が機能していないグアテマラの警官たちの軽さと
いざとなると大きな影響を引き起こすことのできるマヤの長老たちの重さの対比は鮮やかです。


聾者を「別の世界を知っている、特別な力を持つ者」とするマヤと
聾者を外科手術で治療することを良しとする社会。
そんな今のグアテマラの姿を、
誘拐失踪、リンチといった暴力犯罪と合わせて描いたのがこの「聾者」で
世間ずれしていない生真面目な、それ故に他人からなかなか聞いてもらえないカエタノの視点が
おもしろいというか、じれったいというか。


レイ・ローサの作品の中でも読みやすいものではないかと思います。
今まで読んだ中では一番気に入ったかも。


[ 2012/12/01 23:20 ] | TB(0) | CM(2)

ロドリゴ・レイローサ「アフリカの海岸」 

以前から読みたかったロドリゴ・レイローサ(Rodrigo Rey Rosa)の
La Orilla Africana(ラ・オリーヤ・アフリカーナ)の再版が8月に出たので
早速入手して読んでみました。


レイローサはグアテマラ生まれの作家ですが
経歴については本当に簡単にしか知られていません。
結構探して見たんですけれど、いずれも
「グアテマラで学業を終えた後NYで映画を勉強、
 その頃モロッコのタンジェに旅行し、
 アメリカ人でタンジェに住み着いた
 作家であり作曲家であるポール・ボウルズと出会う。
 数年間タンジェに住み、
 レイローサの最初の3つの作品はボウルズが英訳した」
程度のことしか書かれておらず、
いつ頃タンジェに住んでいたのかは不明ながら
そのタンジェを舞台にしたのがこのLa Orilla Africana。
初版は1999年です。


この作品の邦訳は「アフリカの海岸」というタイトルで出ていますが、
僭越ながら「海岸」という言葉はしっくりこない気が・・・。
「アフリカのほとり」の方がぴったりくると思うんだけれどな。


そんなことはともかく。


内容については
Amazonとか
すみ&にえ「ほんやく本のススメ」なんかが
うまくまとめて下さっているので、
そちらをご覧頂くことにして(手抜きじゃありませんからねっ!)、私の感想を。


タンジェの羊飼いの少年と
パスポートをなくして身動きできないコロンビア人と
タンジェに住む裕福なフランス人女性なんかが出てくるこの物語、
実は場所をグアテマラに置き換えても十分成り立つ話じゃなかったのかなぁ、と。


インディヘナの少年の羊飼いに
パスポートを無くすコロンビア人、
そして裕福なカナダ人女性かな。
で横軸に絡むのがアメリカへの不法入国とか麻薬の話。


でもそうしちゃうと余りにも現実的で
生々しい話になってしまいそうで
この物語がかもし出すゆるやかな雰囲気は失われてしまいそう。
実際、モロッコのタンジェという舞台設定が絶妙です。


羊飼いの少年は当然ながらイスラム教で
時折出てくるアラビア語の響きも
異国情緒を醸しだしているし。


レイローサの文章は平易で読みやすいのですが
きっちり文が練られていて、無駄がない感じ。
ストーリーはゆるゆると流れて行き、
川のようにゆったりと合わさったり、別れたり。


タンジェの風景のように、いささか乾いた登場人物たちが
さりげなく現れ、陽炎のように消えて行く。
タンジェに吹く風のような、ひんやりとした読後感ながら
とっても印象的な作品でありました。


レイローサの作品の中では、一番読みやすいと思います。
と言っても、確かこの作品で5作目なんですけれどね、私が読んだの。
機会がありましたら、是非。


[ 2010/09/21 23:14 ] | TB(0) | CM(0)

ロドリゴ・レイローサ「人間の材料」 

小僧のブログを覘いて下さった皆さん、ありがとうございます。
小僧は気になって仕方がなかったようで、
何度も何度も自分のブログを覘いてみてはカウンターを上げていましたが、
それでも早3桁に到達したようで、これには私もびっくり。
てか、負けてるんですけれど、私・・・・・・。どーするんだ。


親と子で一対一対応している我が家の場合、
つい張り合ってしまったりするわけですが、
子供相手に張り合ってどーする。って気もちょっとするかも・・・。





書店でロドリゴ・レイローサの
El material humano(エル・マテリアル・ウマーノ/人間の材料)を見つけ、
思わず買ったのが確か2週間ちょっと前。


ロドリゴ・レイローサ(Rodrigo Rey Rosa)はグアテマラ人の作家で、
現代の作家の中では多分一番世界的に名を知られた人ではないかしら?
代表作にはLa Orilla Africana(ラ・オリーヤ・アフリカーナ/アフリカの海岸)がありますが、
私は未読。かなり前から探してるんですが、どこにもないのですよ・・・。


日本語訳された作品もいくつかあるので、
興味関心のある方はAmazonなどで検索して頂けたら、と思うわけですが、
今日ここで書きたいのは先ほどの新刊の方。


私はレイローサを読むのはこれが4作目なのですが、
この作品には
「そんな風には見えないかもしれないが、
 そんな風にはとても見えないかもしれないが、
 これはフィクションである」
と言う前置きがある通り、誰もが知っている事実が登場しており、
事実とフィクションがどの辺りで溶け合っているのか、
私には想像もつきません。


主人公は作家自身と思われるわけですが、
この主人公が「アルチーボ(アーカイブ)」と呼ばれるところで
過去の資料について調査するところから物語は始まります。


このアルチーボ、内戦時代に旧警察(PN)が貯めた書類のことでして
保管、分類、整理、保存することを目的に
2005年から警察の歴史的資料整理プロジェクトってのが行われておりまして、
実際にこの資料から過去の失踪事件に係わる書類が見つかったりしているわけですが・・・。


さて、主人公は作家でして、資料を調べるのは本を書くため。
そうしていろんな資料に突き当たり、関係者に連絡を取ったりする内に
ある日突然、プロジェクトへの出入りを差し止められてしまいます。


これ以降、少しずつ暗い影が忍び込み始め、
いつの間にか通奏低音でもあるかのようにずっしりと響いていくようになりのですが・・・。


彼の母親は内戦時代に誘拐され、
6ヶ月後に身代金を支払って解放されたことがあったのでした。
当時は官憲によるものではないかと思われたこの事件が、
後にゲリラが実行したものであったことが明らかとなり、
彼はアルチーボそのものへの興味もさることながら、
母の誘拐事件を解明できる資料も探していたのでした。


プロジェクトの職員の中には誘拐事件に係わったと見られる人物もおり、
不審な電話もあり、少しずつ緊張が張りつまって行くのですが
姪っ子(?)のピアの無邪気な洞察力に救われる形で終わる・・・、
いや、救われていないのかもしれないけれど。


レイローサの小説って、中盤の読ませる力は凄いのですが
最後の最後で破綻することが時々あって、
これもどうなるのかなぁ・・・、と思ったら、うーむ、そう来たか、みたいな。


それにしても、本名で登場する人が多々、
また仮名で登場する人たちも。
本名での登場人物の中にはウーリ・ステルスネル(Uli Stelzner)というドイツ人がいるのですが、
この人は作中にある通り、La Isla(ラ・イスラ/島)というタイトルで
このアルチーボのあるオフィスを扱ったドキュメンタリーを制作中とか。
2009年末には完成するそうですが、さてさてここでも見られるのかな・・・・・・。


ちなみにアルチーボの資料プロジェクトについてはこんなサイトがあったりします。
多分やがてデータベース化してくれるらしい。


さてレイローサのこの作品、何と評して良いのやら。
ここに住む私としては、余りにも生々しく、空恐ろしく、
見たくなかった深淵をふと垣間見てしまったような、そんな気がするのですが
そうじゃない方にとっては退屈な話に思えるかもしれません。


それにしても、この諸行無常な無力感は何。
レイローサに付き物の暗さではあるのですが、
実際に起きたエピソードが散りばめられているだけに
他の作品よりも陰影の濃い作品に仕上がっていると思いました。
てなわけで星は4つ。★★★★☆


邦訳がでたら、グアテマラに関心のある方には是非読んで頂きたい作品ではあります。


[ 2009/07/13 23:51 ] | TB(0) | CM(0)

メンデス・ビデス 「らい病者」 

実は、職場で業務用に使っているAccessで作ったデータベース、
使い始めてもう3年目になるのかな?9000件くらいのデータがあるのですが、
今年、そのDBの基本となっているコードが大幅に改変され、
お陰で私もDBに手を加えねばならず、
いろいろやっている内にいろいろと不具合が発生するようになって、
昨日・今日と、別のPCまで借り出して
あーでもない、こーでもないとやっていたのですが、
結論として、やっぱり最初から組み直すしかない!ということが判明しました。


それまでにもRDBを触ったことはあったのですが、
アクセスで作ったのはこのRDBが初めてで、
まだ右と左くらいしかわらかないうちにやり始めたこともあって、
かなり妙な造りになっているのですよね。


「そのうち、根本的にやり直さないといけないよな~」
とはずーーーーーっと以前から思っていたのですが、
「そのうち」ってのは「遠い未来」だとばかり思ってたんだけれどな・・・。


そんなこんなで、今日はかなり目がしょぼしょぼしている上、
神経も疲れているので、細かい話が書けません。


という、ここまでが前振り(言い訳とも言う・・・)、って長すぎですが。


今日はこの前読んだ本の話など、とりとめもなく書いてみたいと思います。





メンデス・ビデス(Méndez Vides)、本名はAdolfo Méndez Videsかな。
グアテマラ人の現代作家で、
エル・ペリオディコ紙にはコラムも執筆しています。


そのメンデス・ビデスのEl Leproso(エル・レプローソ)という小説を読みました。
日本語にすれば「らい病者」。らい病って差別語でしたっけか?
でも「ハンセン氏病持ち」では小説のタイトルにはならんだろう・・・。
本当のらい病患者が出てくるわけではありませんが、意味深なタイトルです。


この小説、グアテマラでの生活に耐え切れず、
アメリカはロサンゼルスへと渡っていったカンチェ・チャベスが
10年振りに故郷のグアテマラシティーに戻ってくるところから始まります。
(え~と、思いっきりネタばれします。読もう!と思う方は注意)


カンチェ・チャベス、ぱりっとした身なりに格好いい車で
自分の町、ベタニアへ凱旋。
まるでヒーローのように祭り上げられるのですが、
実はアメリカでの生活に疲れ果て、
家族や友人たちのいる故郷での生活に戻りたいと思って来たのでした。


ここで注目して頂きたいのは、ベタニアという設定。
ここ、実は市内でも超危険地域として有名なところです。
ファーストフードのデリバリーはおろか、
宅配便すら配達を拒否するような町なのですが、
カンチェ・チャベスが家を後にした頃はまだそうではなかったらしい。


この小説を読めば、ベタニアの人たちさえ
他愛のない、どこにでもいるグアテマラ人のようにも思えますが・・・、
私自身、近づこうとも思わないので、真実のところはわかりません。


それはともかく。
そんなベタニアの人たちのところへ戻ってきたカンチェ・チャベス、
憩いの場所を求めていたのでしょうが、
友人の元にはおろか、家族の元にすらそれを求めることができず、
まるでらい病者ででもあるかのように
ベタニアから吐き出されたところで小説は終わります。


なんとも救いようのない、足元が沈んでいくような感覚に襲われる結末。
カンチェ・チャベスのように、現実に満足できず、
より良いものを目指してリスクを犯すものが直面する現実の厳しさと、
現実の流れの中を泳げるもののしたたかさ。不条理さが切ないな・・・・・・。


評点は星5つのうち3.5。
メンデス・ビデスの別の作品もちょっと読んでみたくなりました。


メンデス・ビデスについてはWikipedia(スペイン語)をご参照ください。
http://es.wikipedia.org/wiki/Adolfo_M%C3%A9ndez_Vides



[ 2008/04/24 23:05 ] | TB(0) | CM(0)